「さん・・・? やっぱりさんだ」
「・・・・?」



大学の近くにある大きな書店で外国のファッション誌を探してうろうろとしていたら見慣れた顔が目の端に映りこんだ。急いでその人の近くに行けば高鳴る鼓動で本人だと分かる。さんを見間違えるはずがない。



「さんお仕事の休憩中ですか?」

「えっと、 ちょっと待ってください」



ごそごそと自分の持っていた鞄をあさくってオレンジ色のケースを取り出す。中からは赤渕の眼鏡が取り出されさんの顔の一部となった。なんでも似合うんだなー、と素直に思った。



「あ!馨くんかー!久しぶり」
「声で気づいてほしかったです」
「ごめんね、まさか馨くんと会うなんて思ってなくて…」



ほんとごめん、と手のひらを合わせる彼女を前にしてそれでもなお不機嫌なままでいられるわけもない。すぐに「これからはちゃんと気づいてくださいねー」と言うと彼女は笑顔で「分かりました」と言った。



「さんは何してたんですか?」
「仕事の関係でちょっと参考資料探してて…」
「あ、一緒に探します」
「んー…でももう行かないと怒られますからねー」
「 でも、…いや、 仕事がんばって」



ふふふ、と彼女が笑ったかと思えば笑顔で「ハイ頑張らせていただきます」と答えた。なんだか見透かされているような気分だ。さんの仕事に対して抱いているこの嫉妬を。



「馨くんも大学がんばってね!」



時計を気にしながら店を出た彼女を背中が見えなくなるまでずっと見ていた。時々思うのはなんでもっと早く生まれてこなかったんだろうということ。彼女がなんでもっと遅く生まれてこなかったんだろうということ。

少しの年の差なのに学生と社会人というだけで遠く遠く感じてしまう。



遠く遠く、この距離遠く遠く、この距離



(071212)